「こんにちは」
「ああっ。そ、そんな。ぼくの、ぼくの幻想の、ロリィタァァァァ!」
「あなたは小鳥くんがバイオを購入するとき同種類のデブと一緒に『いまさらバイオって感じじゃないしねえ!』とことさらな大声で叫んであてつけてみせたわよね。あのときの小鳥くんの愁いをふくんだ悲しげな表情は、今でも思いだすたびにあたしの胸を痛ませるの。大好きな小鳥くんの悲しみをすすぐことができるのなら、この世にただ種を維持するためだけに無意味に存在する、キルケゴールの言うところの『自然の大量生産物』たち何人の生とひきかえにしてもいいと、あたしは心から思うわ」
「そうか、そうか、人間の肌というのは本来こんないい匂いのするものなんだ。それなのにあのくそ女どもときたら、いやな香水の臭いをぷんぷんさせて、俺たちをどうしようもなく不能にさせて…くそっ、くそっ!」
「というわけで、お楽しみ中のところ失礼ですけど、これからあなたを殺しちゃいます。えへ。ごめんね」
「ぶすり」
「ぎゃあっ」
「きゃはっ。目の細かい砂を少し余裕ができるくらいにゆるく詰めた水袋を差し貫くときのような感触。長年刃物と親しんできたあたしだからわかるの。肝臓ゲットぉ。死んじゃえ、死んじゃえ~。誰にも見返られることなく、一人ブタのように死んじゃえ~」
「ごぼ。くそ、ちくしょう、俺だって、こんなふうには、ありたくなかったんだ。できることなら、もっと、高い何かに、ごぼ。なんで、俺は、いつも、いつも」
「ぶすり」
「ぎゃあっ」
「きゃはっ。『キィン』という音とともに手首に鈍くひびく硬質の手触り。長年刃物と親しんできたあたしだからわかるの。金玉ゲットぉ。死んじゃえ、死んじゃえ~。誰にも愛されることのなかった何の生産性もないこれまでの人生を、死ぬ瞬間に初めて客観的に後悔しながら一人ブタのように死んじゃえ~」
「待って、おいていかないで、ぼ、ぼくの、ロ、ロリィタ…」
「おもしろぉい。立ち上がろうとして何度も血糊に足をすべらせてひっくり返ってるわ。片玉を失ってバランスがとれないのね。まるで出来損ないのおきあがりこぼしみたい。見て見てぇ。ブタ踊りブタ踊りぃ。ぶっざまぁ」
「ごぼ…やだ…こんな…おか…あ…さん…」
「こら。探したんだぞ。今までどこ行ってたんだ」
「あっ、パパ。あのね、小鳥くんをいじめる悪いおとなのひとを殺していたの。今日は六人も刺殺しちゃった」
「そうか。さぞ猊下もお喜びになるだろう。いいことをしたな、真奈美」
「えへへ」
「今日の夕食はハンバーグだってママが言ってたぞ」
「やったぁ。あたし、ハンバーグだぁい好き!」